2011年12月16日金曜日

破綻の林原買収に700億円、老舗商社・長瀬産業の大勝負

化学品商社の長瀬産業が、2月に倒産した食品・化粧品素材などのバイオ企業、林原(本社・岡山市)を来年2月初旬にも子会社化し、同社再建に社運を懸ける。

 林原は不動産投資などで負債が膨張。創業者一族による長年の粉飾決算も発覚し、会社更生法を申請した。11月18日に提出した更生計画が裁判所から認可された後、長瀬が100%子会社化する。

 倒産したとはいえ、林原はがん治療薬「インターフェロン」や糖質「トレハロース」を世に送り出したバイオの有力企業。中でも食品の乾燥などを抑制するトレハロースは、製造特許を押さえて市場を独占し、利益率も高い。

 同社の支援には食品や製薬、商社など国内外の数多くの企業が名乗りを挙げ、買収額(=債権者への弁済原資となる支援金額)は高騰。熾烈な争奪戦の末に権利を得た長瀬が投じる金額は、出資・融資合計で700億円に上る。

 長瀬は合成樹脂や化成品、電子材料を柱とする化学品商社最大手。1832年創業の老舗企業で、堅実経営に徹してきたため財務内容もいい。が、今回の買収に投じる700億円という金額は、長瀬が2010年度に稼いだ最終利益の6年分にも相当し、その資金負担は非常に重い。

 それでも林原を買収する一番の目的は、新たな収益柱の育成だ。長瀬が扱う化学品商材は、電機や自動車業界への依存度が高く、こうした業界の景況に業績が左右されやすい。このため、景気影響を受けにくい食品用酵素や医薬といったバイオ事業の強化を急いでおり、林原買収は同事業拡大の大きなチャンス。化学品も将来的にバイオ由来商材の需要拡大が予想され、その対応のためにも研究開発の人材を増やしておきたい。

 買収対象となる林原のバイオ事業の今年度業績見込みは、売上高260億円、営業利益53億円。買収後は手薄だった海外展開に力を入れ、アジアを中心にトレハロースなどの潜在需要を開拓し、10年間での投資回収を目指す。

 「700億円という金額の正当性は、長瀬の事業として成長させられるかどうかで変わってくる。全社を挙げて、林原を含むバイオを将来の柱に育てたい」と長瀬洋社長。巨費を投じる買収の成否に、老舗商社の未来が懸かる。

(渡辺清治=週刊東洋経済2011年12月3日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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